スウェーデンの民主主義のつくり方 スウェーデン で民主主義は、どのくらい根ざしているのか?

スウェーデンが若者参加の先進国である所以

「自分たちが社会に影響を与えられると感じている若者の割合は、日本が24%であるのに対し、スウェーデンは65%に上っています」

2011年4月11日のNHK「クローズアップ現代」で「18歳は大人か!?~ゆれる成人年齢引き下げ論議~」 が放送された。内容は、未成年住民投票、スウェーデンの若者団体の紹介、未成年模擬選挙などでした。スウェーデンに留学中の私がこの番組の知ったのは、日本にいる友人のTwitterでのつぶやきからであった。
このアンケートは2009年のゴールデンウィークに参加したスウェーデンスタディーツアーの最終日に、首都ストックホルムの駅前でとったものと、別の日に同じアンケートを静岡市の街中でとったものとを比較したものだった。質問項目も、日本語と英語でできるだけ意味が異ならないようにし、市街地でランダムに通行者に声をかけデータの隔たりを防ぐようにした。それでもサンプル数はたったの100人だったし、普遍化するには当然、十分とはいえない数字だっと思っていたので、アンケート結果はスタディーツアーの報告会で発表し、ホームページに細々と掲載するに留めていた。それがまさか、NHKの「クローズアップ現代」で全国放送され、視聴率10.6%を記録するなんて思ってもいなかった。

確かに、スウェーデンの若者の政治への意識は高い。スウェーデン若者市民社会庁は日本でいう「子ども若者白書」に該当する「今日の若者(Ung idag)」という白書を毎年発行している。この白書では、教育と学習、健康と脆弱性、影響力と代表性、仕事と暮らし、そして文化と余暇活動という5つの主要な分野を基本とし、全87の指標から今日の若者の状況を照らし出している。「影響力と代表性」という項目では、若者の政治参加や社会的な影響力についてまとめている。
「若者白書 (2013年版)」によると、
● 2012年の16歳から25歳の若者の政治的な活動に参加した若者は71%
● 40%の若者が自分の地域に影響を与えることに興味があり、17%が政治家に意思表明する機会があると感じている
● 16歳から25歳の若者の約40%が政治について話すことに関心がある
● 29%が月に数回知り合いと社会の問題や政治について議論している

約7割の若者が政治的な活動に参加しているというのは驚きである。また、4割の若者が地域への参画に興味があるという意識の高さも驚きであるが、政治家に意思表明ができていると感じている若者が17%いるということは、興味で「留まっている」だけではないということがよくわかる。16~25歳の若者のうち40%が社会的な問題についてインターネット上で意見表明をし、その中では女性よりも男性の方がインターネット上で政策について議論やコメントをしているということだ。
さらに、別の報告書(Unga med Attityd 2013)では、16歳から25歳の若者の
● 40%が政治について話すことに興味があり
● 56%が社会に関しての問題について話すことに興味があり
● 29%が月に数回知り合いと社会の問題や政治について議論している
ということだ。

高い投票率だけではない、若者が社会に影響を与えられる国

スウェーデンの若者が政治や社会へ高い意識を持っていることがよくわかる統計であるが、それがそれが単に「意識」に留まっておらず、行動へも実際に表れている。わかりやすい社会参加のひとつの指標が、選挙投票である。2014年のスウェーデの総選挙の全世代の投票率は85.8%で、30 歳以下の若者の投票率は81%であった。一方、日本の平成29年度の衆議院選挙における20歳代の投票率は、33.85%である(*1)。スウェーデンは、第 2 次世界大戦後から2002年までの17回の平均投票率も、87%を超えていることから、単に当時の選挙だけが特別だったわけではなく、選挙参画度がずいぶん前から高い国であるということがよくわかる。

しかし若者の高い選挙投票率だけが、高い社会参加意識を裏付けるものだろうか。実際に、若者が社会へ影響を与えることができ社会こそが民主主義が若い社会である。この点もまた、スウェーデンは驚きの事実を教えてくれる。日本とスウェーデンの若い政治家の割合も比較してみると、2018年時点で、日本には国会議員722人中、30歳以下の 国会議員は存在しない。一方のスウェーデンでは、30歳以下の国会議員は10.6%を占めている(2014年*2)。さらに、2014年に発足した社会民主党政権の連立内閣の24人の閣僚のうち30代 の政治家が 3 人もいるのである。グスタフ・フーリドリーン(31歳)(教育・調査省大臣)、アイーダ・ハジアリッチ(27歳) 高校・知識向上担当大臣、ガブリエル・ウ゛ィークストロム(29歳)(国民健康・医療およびスポーツ担当大臣)、といった具合にだ。

教育だけではみえない、北欧の民主主義社会

スウェーデンは若者政策の先進国として最近では知られるようになってきた。当時、初めてスウェーデンに渡ったときから私はブログや各種機関誌を通じて、スウェーデンの若者参加の実態、その実践や若者団体の取り組み、政策など様々な側面から発信してきた。

よく日本よりも「主体的な子ども・若者」として欧米の事例が引き合いに出される。そこでは、主体性や創造性を引き出す学校教育や欧米の文化が、理由として紹介される。それはあながち間違っていないだろうが、他方で果たしてそれだけが理由だろうか? という疑問が浮かぶ。なぜなら、私自身がスウェーデンでこれまで100回以上、若者組織、余暇活動施設、市民団体、教育機関などの関係者にインタビューをしてきたが、そのほとんどが学校の外における取り組みだったからである。

確かにスウェーデンの学校教育では民主主義を教えることがひとつの使命であることが、スウェーデンの教育基本法に明記されているし、学校教育における様々な実践も報告されている。しかし、私は主体の「意識」や「規範」に影響を与える教育や文化だけではなく、スウェーデン社会のそこかしこに民主的に、若者のみならずあらゆる人種、性別、障害の有無を超えた多様な市民が参画できる仕組みができていることが要なのではないかと考える。
アルパカのウェブマガジンでは、私がみてきたスウェーデン社会のそんな一片を紹介できればと思う。

*2: Und Idag http://ungidag.se

執筆者プロフィール

両角 達平
両角 達平
(もろずみ・たっぺい)
1988年長野県生まれ。ストックホルム大学院国際比較教育(修士課程)修了。フリーランス系北欧研究員。
若者が社会の作り手と感じられる社会へその答えを探るためにスウェーデン・ドイツに4年間研究等で滞在し、帰国。
現在、文教大学付属生活科学研究所研究委員、駒澤大学非常勤講師、個人事業主のコンサルタント、執筆者としても活動。
ブログ https://tatsumarutimes.com/